反対耳 迷聴器
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 50年前に見た写真だが、今でもはっきり覚えている。

 耳で聞いて音源の方向を知ろうとすると、マイクを固定しておいたのではだめで、マイクが自分の頭といっしょに動かなければならない、という記事だった。
 じゃあ、右のマイクの音を左のヘッドホンにつないだらどうなるんだろう。自分でもやってみたいと思った。

 しかし、マイクやヘッドホンを買うお金はない。アンプは作れるが、当時は真空管時代だから、かなり大げさな物になる。

 結局あきらめて、今日に至る。ふと思い出して作ってみた。
 今なら、マイクアンプとヘッドホンアンプを直列にするだけだから、オペアンプ2個でできる簡単な工作だ。

 部品はまとめ買いした買い置きがあるが、在庫が偏らないように、回路設計する。

 カラーコードが覚えられないので、使用する抵抗をまとめて紙に貼り付けておく。
 オペアンプは何でも良いが、手元にあったNJM4580を使った。

 20倍のアンプを2段直列にして400倍。マイクの音をイヤホンで聴くだけの装置だ。

 ディスクリートで作った方が簡単な気もするが、一度オペアンプで楽をしてしまうと元に戻るのは難しい。
 片電源で使うので、非反転入力を半分つり上げておく。

 実体配線図を書いて、およその配置や、ランドをどうするか考える。
 主な部品を取り付け、ランドを瞬間接着剤でくっつける。

 ランド式にすると配線間違いが少なくなるが、基板の大きさに十分な余裕がないと、半田付けがしにくい。

 注意力に自信があって、配線間違いをしない人ならジャノメ基板などで作った方がコンパクトになる。
 CRを取り付けて、できあがり。簡単な物なので、配線チェックもせずにいきなりスイッチを入れる。

 キンキンした音で聴けた物ではない。どうやら高域が発振しているようだ。アイソレーターを入れるのが正当なのだろうが、とりあえず出力をダンプする。ゾーベルフィルタとか言うらしい。

 スイッチを入れると、ボボボボ・・・って、今度はモーターボーディングですか。
 余程下手な配線をしたんでしょうね。こういう回路でモーターボーディングを起こすのは、電源関係の回り込みだ。

 非反転入力をつり上げるための抵抗にかましたパスコンの10μFの容量抜けか。

 100μFをパラに入れて発振を止める。

 次は、マイクとアンプを取り付けるヘッドセットをボール紙で作る。
 聴覚には耳朶が重要なので、大きめで少し張り出してみた。マイクは定番のWM−61Aだ。

 アンプを頭頂につけたら、重心が高くて、ずり落ちてくる。パンツのゴムであごひもをつけて安定させる。

 見た目がどうもあやしい。ミッキーみたいでかわいいと言えなくもないが。頭の上にマネキンの首を乗せているのと比べて、どうだろう。
 
 イヤホンは音が漏れないように、耳の穴にぎゅっと突っ込むタイプだ。アンプのスイッチを切ると、まわりの音はあまり聞こえない。さらに厳密にする場合は、イヤホンの上からガムテープでも貼ると良いだろう。


 イヤホンの左右を入れ替えてみる。右のマイクから入った音を左の耳に、左のマイクから入った音を右の耳に入れると、どんな風に聞こえるか。

 目を閉じて、机に置いた音源を聞く。首を動かすと、音源の方が動いているように聞こえる。

 変わったところと言えばその程度で、目を開いていると普通と変わらない。

 要するに「視覚優位」というやつだ。

 目を閉じていると、音の方向が左右逆に感じられる。しかし、目を開けていると、イヤホンをどちらの耳に入れていても普通に聞こえる。

 視覚優位については非常に面白い実験があるが、また別にやってみたい。


 また、左右の視覚を入れ替える「反対めがね」も面白いが、これは電子的には難しい。昔ながらの鏡やプリズムで作るしかないだろう。


 ところで、今回この工作をするにあたって、右のマイクの音を左の耳で、左のマイクの音を右の耳で聴いたらどうなるか、をネットで探したら、やっぱりすでにやっている人が居た。

 Paul Thomas Young が1928年にそういう装置を作って実験していて、その装置はpseudophone(迷聴器)という。

 まあ小学生が思いつくような事は、当然誰かが考えているわな。