ババ平から槍沢を見上げる。

 快晴だが、飛行機雲がやたらはっきり見える。天候は下り気味か。
 天狗池への分岐辺りから山頂が見え始める。「ヤッホー、ついに来たぞう。」と叫んでも、答えはない。

 声も出ないらしい。

 それにしてもこの雲は。明日は雨か。
 すぐそこに見えているのだが、なかなか近づいてこない。

 ついには3分歩いて1分休む、というペースに。お気楽登山と言うよりは、苦行者が聖地を目指すよう。
 延々7時間歩いて、ついに槍ヶ岳山荘に着く。岩に張り付いている人々が見える。

 荷物を放り出して、早速登る。妻は、30年前に登ったからまあいいわ、と山荘に残る。

 かなり足に来ているので、結構怖い。休んでからにすべきだったか。

 ここで落ちたらまずい、と思うと足がすくむ。
 眼下に今日の宿を見下ろす。

 ここで恐ろしいものを見てしまった。ツアー登山で、ビビってハシゴが下りられないメンバーにハーネスをつけて、ガイドが確保して下ろしていた。

 ところが、このガイド、制動の仕方を知らないらしい。カラビナにまっすぐ通したザイルを握っているだけ。

 もし本当に落ちたら、これでは止められない。プロだと思って信用してはいけない。