戯曲「夜叉が池」(やしゃがいけ)
 泉鏡花作。泉鏡花の同様の雰囲気のものとしては「海神別荘」「高野聖」「天守物語」が有名。天守物語と夜叉が池は板東玉三郎で映画化されているが、夜叉が池はビデオ化もDVD化もされていないので、見ることは難しい。


[あらすじ] 語り手山沢学円が旅の途中で越前の国大野郡鹿見村琴弾谷を通りかかったときに、行方不明だった旧友萩原晃と再会する。萩原は先代の鐘楼守の老人にたのまれて、毎日鐘を突くためにこの村にとどまっていると言う。夜叉が池の主白雪姫が、この鐘がなる間は洪水を起こさない、と約束した鐘だった。長年の間に村人はその約束を忘れてしまっていた。

 日照りが続き、雨乞いのために夜叉が池に生け贄を捧げることになり、萩原の妻百合が選ばれる。いやがる百合と村人がもみあう内に、百合が死んでしまう。萩原は怒って、鐘木を切り落とし、鐘が突けないようにする。

 白雪姫は約束どおり洪水を起こし、村を滅ぼしてしまう。生き残ったのは旅人学円だけだった。


[夜叉が池の所在] 鏡花の戯曲では「越前の国大野郡鹿見村琴弾谷」ということになっている。越前の国は現在の福井県だが、鹿見村は大野郡ではなく南条郡鹿見村(明治23年堺村と改称)である。現在では福井県南条郡今庄町になる。琴弾谷が実在の村落かどうかは分からない。

 実際、今庄から日野川をさかのぼると広野ダムに行き当たる。現在では広野より上流には村落はないが、廃村後にキャンプ場ができている。この廃村あたりが戯曲「夜叉が池」の舞台だろうと思うのだが、地名はちょっと分からない。

 地図を見ると夜叉が池は福井県今庄町に含まれるようだ。しかし、県境になる尾根より数メートルしか離れていない。すぐ隣になる岐阜県坂内村は、夜叉が池は坂内村に属すると主張している。坂内村のホームページには夜叉が池のライブカメラがある。夜叉が池の雪景色が居ながらにして見られるのは嬉しい。