リターンロスブリッジの特性(その5)

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 おさらい。

 (A)がブリッジの原型だ。

 測定器を同軸ケーブルでつなぐので、入出力を分離する必要から、トランスを入れたのが(B)。

 コンベンショナルトランスは帯域が狭いので、高い周波数の性能を伸ばすために伝送路トランスを使ったのが(C)だ。

 逆に伝送路トランスは低い周波数で分離が悪くなる。低い周波数に限って性能を追求するのなら、(B)タイプを再考する意味が有りそうだ。

 私は中、長波をやるつもりはない。中間周波数の455kHzが測定の下限だ。

 上限は、以前作ったリターンロスブリッジの下限の20MHzくらいにとどけばよいのだが、出来れば50MHzくらいまで伸びて欲しい。

  
 ところで、コンベンショナルトランスを使ってブリッジを作るのなら、右の(D)ような選択肢もある。

 いわゆるトランスブリッジというやつで、そろった抵抗を用意する必要がないので、トランスの製作に集中できる。

 しかし、見たとおり、出力が電流出力になるので、測定器自体のインピーダンスがどうなっているのか分からない。

 そうすると、「どっちがバランスがよいか」という相対的な測定は出来るが、絶対値に関しては何を測っているのか分からない。

 これはこれで、非常に感度の良いものを作れる可能性を秘めているので、興味が有るが、今回は取り上げず、(B)タイプで行くことにする。
 通過ロスを小さくすることと、迷容量を減らすことは、トランスの構造上矛盾する。トランスを2種類作って、比較してみた。

 これは、結合度(従って通過ロス)を犠牲にして、1次と2次の容量性結合が小さくなるように、巻き線を離して巻いたトランス。

 こちらを(1)型としよう。
 これは、結合度を大きく(従って通過ロスを小さく)するために、1次2次の巻き線を平行巻きにしたもの。

 当然容量結合が大きくなるので、通り抜けは悪化する。こちらを(2)型とする。

 ただし、普通に平衡巻きにすると、アンバランスが生じるので、巻き方を下記のように工夫する。
 まず1次側(写真左側)だけ巻いておいて、次に反対側(写真右側)から始めて、1次巻き線の間に2次巻き線を巻いていく。

 そうして出来上がったのが、上の写真。

 こうすると、4本の線がすべて対等になるので、どのようにつないでもバランスが保たれる。
 ずいぶんいい加減なセッティングだが。

 コンベンショナルトランスの後ろに、5回巻きのフロートバランを入れておく。コモンモードの漏れを少しでも改善するため。
 
 以下、左側が(1)型、右側が(2)型の写真だ。

 低い周波数でビックリするような結果が出た。 

  
  
 ブリッジがバランスしている状態での出力の様子。(1)型の方が減衰が大きくて良いように見えるが、通過ロスとの差を取ってみないと分からない。


  
  
 そこで、ブリッジの片方をアースして、バランスを崩してみた。

 やはり(1)型は通過ロスが大きい。周波数が高くなると、急激に悪化する。

 500MHz以上では、(2)型も大きく悪化するが、このあたりは今回の狙いとは関係ない。

 高い周波数では、バランスした時より崩した時の方がロスが大きい部分が有ったりして、ブリッジの動作としてはデタラメだ。

 コンベンショナルトランスを使ったリターンロスブリッジは、数十MHz以上の周波数では使えないと考えた方が良い。

  
  
 低い周波数で、バランス状態の出力。

 100MHz以下なら、(1)型の方が良さそうだ。


  
  
 通過ロス。

 (2)型の方がかなり良い。(1)型は周波数が高くなると、急速に悪化する。非常に低い周波数(10MHz以下)なら、(1)型も使えるか。

 差し引きすると、やはり(2)型の方が本命のようだ。


  
  
 20MHz以下を比較すると、当然(1)型の方が良いが、何と、スケールアウトして減衰がどれだけか分からない。


  
  
 通過ロス。(2)型は20MHzまでフラットだ。(1)型も10MHz以下なら十分使えそうだ。


  
 以下、(1)型について、低い周波数を詳しく見る。

 (1)型の減衰がスケールアウトしてしまったので、リファレンスを10dB下げる。

 縦軸が今までと10dB違うので注意。

 どうやら、一番深いところで、-90dBm近くのようだ。
 通過ロス。10MHzで、-20dBm弱。

 100KHz付近では、差し引き70dBの減衰が得られている。
 一体どのあたりの周波数まで使えるのか。通過ロスを見てみる。

 今、センターが370KHzと表示されているが、これはスペアナの周波数誤差で、本当はここが0Hzだろう。

 マーカーが473KHzにある。ここより下は通過ロスが急速に大きくなるから使えない。トランスの限界だ。

 ここの本当の周波数は473-370=103KHzだ。
 その周波数の減衰は96dBなので、差し引き76dBになる。

 もっと低い周波数でさらに減衰が大きくとれているように見えるが、これは通過ロスの悪化によるもので、測定には使えない

 もう、こうなると何を測っているのか分からない。
 スペアナの入力ケーブルをはずしてしまうと、こうなる。

 要するにこのブリッジでは、100~500KHzあたりでは、ノイズレベル近くまで減衰がとれるということだ。

 重ねて言うが、こうなると、何を測っているのか分からない。
 
 とりあえず、(1)型のトランスを使ったリターンロスブリッジは、10MHz以下では40dBほどの減衰があるので、まずまず使える。

 さらに、100~500KHzに限れば、70dBほどの減衰があるわけだから、非常によい。(何を測るつもりか知らんが。) 

 しかし、実用的な測定器として欲しいのは、瞬間最大風速70dBなどという数字より、広い範囲で40dB以上という安定した性能だ。

 もう少し上の方が何とかならんかな、と考えてみた。


 
 43材の伝送路トランスは数百MHzまでいける。しかし、コンベンショナルトランスに使った場合、そもそも数十MHzで使うのは無理だ。

 そこで、部品箱をかき回すと、T50-10とT50-12が出てきた。

 これなら100MHzは余裕だ。ただ、μが10材は6,12材は4しかない。(43材は1000近くある。)
 μが小さいので、できるだけたくさん巻く。

 細い線をガラ巻きにした方が性能は出るはずなのに、キッチリした性格がじゃまをして、ふと気がつくと太めの線で密着巻きにしている。
 これは通過ロス。

 残念ながら、一番ましなところでも通過ロスが30dBほどもあって、使い物にならない。
 それなら逆にμ=5000のFT37-75はどうだ。

 μが大きいので、6:6の並行巻きにする。
 通過ロス。

 50MHzで20dBほど。

 #43より#75のほうが良いようだ。
 リターンロス。

 50MHzで50dB。通過ロスを引くと30dBほどだから、使えなくはない。

 最低周波数は100kHzほどになる。25MHz以下で徐々に良くなって、100kHz付近では65dB程の減衰を得る。

 100KHz~50MHz辺りまで専用と言うことであれば、これでも十分か。